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大阪地方裁判所 平成6年(ワ)10117号 判決

原告

佐藤司建設工業株式会社

被告

福井武司

主文

一  被告は原告に対し、金一六二万四〇〇〇円及びこれに対する平成六年五月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告に対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを五分し、その三を原告の、その余を被告の負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

被告は原告に対し、金二六八万六〇〇〇円及びこれに対する平成六年五月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、リース車両を追突損傷された原告が、右追突車の運転者を被告として、民法七〇九条に基づき、代車料及び評価落ちによる損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実など(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含む。以下( )内は認定に供した主たる証拠を示す。)

1  事故の発生(争いがない)

〈1〉 日時 平成六年五月二九日午後四時四五分ころ

〈2〉 場所 西宮市山口町名来二丁目一番二八号先

〈3〉 加害車両 被告運転の普通乗用自動車(神戸七七む七六一九号、以下「被告車」という。)

被害車両 訴外福原友清運転の普通乗用自動車(神戸三三よ三二八六号、以下「原告車」という。)

〈4〉 事故態様 赤信号のため停止中の原告車に、被告車が追突した。

2  被告の責任原因(争いがない)

被告は、前方を注視して、停止中の原告車に追突することのないように余裕をもつて制動をなすべきところ、これを怠り、何ら制動措置をとることなく、被告車を原告車に衝突させたものである。

3  原告車の所有者(甲四、乙四、原告代表者)

原告は、平成四年一一月三〇日、株式会社トヨタレンタリース大阪から原告車を、契約期間三年で借り受ける旨の自動車リース契約を締結し、本件事故当時まで引き続いて原告車を使用してきた。

4  原告車の損傷及び修理代金(争いがない)

原告車は、本件事故によつて損傷し、その修理代金として金一九九万八二〇〇円を要した。

二  争点 損害額

1  評価損について(原告の請求 一一三万三〇〇〇円)

(一) 原告の主張

原告車は後ろ回りが大破しており、修理後であつても、専門家が見れば、どの程度の事故であるかわかるもので、実際に修理をなした大阪トヨペツトにおいても、本件程度の損傷を受けた車の時価は、一一三万三〇〇〇円減ずると証明しているので、右金額が評価損となる。

なお、原告は本件車両がリース契約車であることからくるリース会社への損害填補額を評価損として求めているものではなく、実質上の所有者であることからくる通常の評価損を求めているものである。

(二) 被告の主張

原告車には修理してもなお修補しえない具体的な機能障害が残つたとは認められないから、評価損は生じていない。

仮に、生じたとしても原告の請求額は過大である。

2  代車料(原告の請求 一一三万三〇〇〇円)

(一) 原告の主張

原告車は、原告代表取締役が営業及び現場監督のために得意先の訪問や現場の往復に自ら使用していたものである。したがつて、代車がなければ、原告の仕事はなりたたず、本件事故と代車料との間には、相当因果関係がある。

原告は、原告車と同じ種類のトヨタセルシオを代車として使用していたものであり、不当な高級車を使用していたものではないし、しかも通常なら代車料として一日三万から三万五〇〇〇円かかるのを、二万円に減額してもらつたものである。

二〇日余り原告車の修理着手が遅れたのは修理の着手について被告の任意保険会社に相談したところ、その対応に不手際があつたためである。しかも、修理着手前に部品の手配がなされていたこと、後半は詰めて修理の仕事がなされたこと、当時修理工場が混んでいたことを考え合わせると、修理に要した五五日という期間は、通常の期間である。

よつて、代車料全額一一三万三〇〇〇円(二万円×五五日+三万三〇〇〇円(消費税))が本件事故と相当因果関係のある損害である。

(二) 被告の主張

仮に代車の必要があつたとしても、トヨタクラウン程度の国産高級車を使用すれば目的は達せられるはずで、その場合一日あたりの代車料は一万二五〇〇円である。

修理の着手が遅れたのは、原告が被告の任意保険会社に対し、合計六七〇万円余りにも登る不当に高額な請求をしたこと、原告が直ちに弁護士に相談しなかつたことにある。本件において被告がその代車料を負担すべき期間は、実際の修理期間である三五日から、原告代表者が休暇をとつたであろう三日間を差し引いた三二日分である。

よつて、被告が負担すべき代車料は最大限四〇万円(一万二五〇〇円×三二日)である。

第三争点に対する判断

一  争点1(評価損)について

前記争いのない事実に証拠(甲二、証人吉中征也、原告代表者)を総合すると、原告車は後部が大破し、シヤーシを含め極めて多数の部品が取り替えられていること、その修理代金も二〇〇万円近くに及んでいること、実修理期間も三五日に及んでいることが認められ、これらの事実はいずれも、原告車に修理後も機能障害ないしは耐用年数の減縮が生じたことを窺わせるものである。更に、修理後、足回から音が出たり、ブレーキを踏むと音がでるので再修理したところ、これらは直つたものの、その後も車の底の方で音がすること、修理後も専門家がみればどの程度の事故かすぐ分かるものであることが認められる。これらの事実によれば、原告車には修理によつても完全に回復しない機能障害が残存し、その客観的価値が低下したと認められ、右評価損は、前記争いのない修理費(金一九九万八二〇〇円)の三割相当である金六〇万円と考えるのが相当である。

原告は修理会社の査定額である一一三万三〇〇〇円を評価損として主張するが、吉中証言によつてもその計算根拠は明らかではないし、右修理代金と対比した場合、通常の評価損としてはやや過大の感を免れない。なお、原告車はリース車両であつて、本来原告は期間満了時には本件事故による価格落ちによる損害の填補をリース会社から要求される立場にあるが、原告が本件で求めているのは、その填補額自体の賠償ではなく、通常の評価落ちによる損害であり、本件において、リース会社からは「原告と被告との間で本件事故による損害の賠償を解決すれば、リース会社としてはそれに異議をとなえたり、後日原告及び被告に請求することはしない。」旨の覚え書き(甲四)が提出されている。

二  争点2(代車料)について

1  証拠(原告代表者)によれば、原告車は、原告代表取締役が営業及び現場監督のために、得意先の訪問や現場の往復に使用していたものであるから、右車の修理期間中、代車を使用する必要性が認められる。

2  そこで次に適正な代車代金について検討する。証拠(証人吉中征也、原告代表者)によれば、原告車はトヨタセルシオであり、国産車としては最高級車の一であること、原告が現に代車として使用した車種も同セルシオであること、同車の一日当たりの使用料は、本来三万円を超える額であるところ、原告代表者はこれを一日あたり二万円に減額してもらつたことが認められる。そして、右金額は証拠(乙七)によれば、被告が「原告は代車としてはトヨタクラウン程度が妥当」と主張している、同車種の一日当たりの使用料金に相応するものである。

被告はクラウンなら一日あたり一万二五〇〇円ですむはずであると主張し、証人吉中の証言中には、これに沿う部分もあるが、その証言は、「クラウンの使用料は一日あたり二万円くらいであるが、原告から頼まれれば一万二五〇〇円にすることは可能である。」との趣旨に解されるのであつて、本来の使用料が一万二五〇〇円であることを認めるものではない。確かに、被害を受けた者はその損害の拡大を最小限に止めることが期待されるが、被害者に対して被害車両より、格下の車種の代車を使用することを要求したうえに更にその値引きまで期待することは、いささか妥当性を欠くものであつて、原告が被害車両と同車種の代車を使用しながらも、その代車料を大幅に減額させたなら、その限度では被告はこれを甘受すべきである。したがつて、代車料としては一日あたり二万円とみるのが相当である。

3  そこで、最後に相当修理期間について検討するに、証拠(証人吉中)によれば、原告車は修理工場に持ち込まれた後、加害者からも保険会社からも修理に着手してくれとの返事がなかつたので、二〇日あまり着手が遅れ実際の修理期間は三五日にとどまつたこと、しかしその間に部品の手配はやつており、原告から早くやつてくれと言われて詰めて修理をしたこと、当時修理工場が混み合つていたことが認められる。同証言中には詰めて仕事をしたので、延べにすると空白期間の影響はなく、結局すぐ仕事を始めたとしても五五日近くかかつた旨の証言があるが、二〇日に及ぶ期間が影響を及ぼさないということは考えられず、この点の証言は信用できない。しかしながら、修理着手前にも部品の手配がなされており、修理着手前の期間が無駄に過ごされたわけではないこと、当時修理工場が混み合つていたことを考え合わせると本件における相当修理期間は四〇日とみるのが相当である。

4  以上から、本件事故と相当因果関係があるとして被告に負担させるべき代車料金は、八二万四〇〇〇円(二万円×四〇日+二万四〇〇〇円(消費税))である。

三  右一、二の合計額は一四二万四〇〇〇円である。

右金額及び本件訴訟の審理経過、事案の内容に照らすと本件事故と相当因果関係があるとして、被告が負担すべき弁護士費用は二〇万円である。

よつて、原告の請求は、一六二万四〇〇〇円及びこれに対する本件事故当日である平成六年五月二九日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

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